2012年10月31日水曜日

299)引きこもりと自己奪還

シニフィアン研究所(埼玉県上尾市&和歌山県和歌山市)の迎意 愛(むかい あい)です。
精神分析という対話療法で心身の悩み相談をしています。
           
今日は、「引きこもりと自己奪還」 について書きたいと思います。
「母性剥奪」という言葉がありますが、
「自己剥奪」され、人間でないものにされてしまった人が、
自分というものを取り戻すことを『自己奪還』と呼んでみました。
ここでいう「自己剥奪」とは
自らの意志と考えによって言動することを根こそぎ奪われている状態のことをいいます。
「自己奪還」とは、自らの意志と考えに基づいた言動を取り戻すことです。
それは≪私は人間だとの自己規定≫でもあると思います。

自己奪還のためには、まず「引きこもること」が必要であることを書きたいと思います。
「奪還」という言葉は「剥奪」に対して用います。
つまり、根こそぎ奪われているから奪い返すという意味です。
奪還という言葉を使うに至ったのは
日々の精神分析という面談の中で、クライアントの叫びとして聞こえてくるからです。
非行や引きこもり、不登校、いじめ、うつなど子どもから大人に至るまで
≪私は人間だ≫との切実な叫びを痛感しています。

ある引きこもりになった男性(以下Sさんと呼ぶ)の言葉を紹介したいと思います(本人の了解済)。

自分は今まで、親をはじめとする周りの人たちの姿や言葉に従ってきた。
そして、それに対して何の疑問も抱いていなかった。
ところが、あるきっかけから引きこもり、気付いたことがある。
今まで自分の考えや意志がなく、周りに用意されていたことに従っていただけだった。
引きこもりと言われるようになって初めて、
自分というものが無かったことに気が付いた。
何も語れない自分を知った。

そして、今、自分が何を考え、何を求めているのか、いないのかを見つめている。
そんな暇さえ持っていなかったことに驚いている。
初めて迷っている。初めて真剣に悩んでいる。考えている。


このようにSさんは語りました。
Sさんは引きこもったことにより、周りに用意されている事柄に対して受身であったことに気付いたというのです。
例えば、学校や習い事、就職、仕事などに対しても
自らの意志で積極的に関わってこなかったことに気づいたのです。

Sさんは、引きこもることによって、その機会を得ることができた。
否、このままでいいのか、との無意識からの強いメッセージにより
引きこもりという状態になった、とも考えられるのではないでしょうか。
こうして考えてみると
引きこもることは、知らないうちに自らの意志と思考を剥奪された自己を奪還するための一つの方法ではないかと思うのです。

ここではSさんの言葉を中心に書きましたが、
引きこもることは、自己剥奪された人が自己奪還への叫びの行動化の一つだと思えてくるのです。
つまり
人間でないものにされてしまった人が、≪私は人間だ≫と叫んでいる姿のように感じるのです。
人間であるとは、言語で語れることの意味で使っています。
分析家はその語らいを聴いています。
受身から能動への転換、
それが自分らしく生きていくことでもあるのではないでしょうか。


シニフィアン研究所のHPはこちらです。http://signifiant-lab.com/
「不登校の子どもの母より」サイトhttp://signifiant-lab.com/escape/
「思春期の悩み」サイトhttp://signifiant-lab.com/eatingdisorder/も参照ください。

0 件のコメント:

コメントを投稿